木になる話 2 まだ続いている……

 ―――ジョン・レノンは、日本に永住しようと思っていた!?―――

    それでは、南田優子さんが発症し、苦しんだ、化学物質過敏症(Chemical Sensitivity=CS)は、どのような疾患なのか、南田さんの手記を交えながら、解説したいと思う。

『慢性的に特定の化学物質に接触し続けたり、一度に大量の化学物質に暴露されると、後に非常に微量な化学物質に接触するだけで、多様な症状を発症する』 

これが、化学物質過敏症(CS)だ。

原因としては、『過去に多量の化学物質に暴露されたことで、身体の耐性限界を超えてしまったこと』があげられる。

    人は生存するために、個人差はあるが、外的な物質に対して耐えられるよう、それぞれが一定の許容量を持っている。しかし、一定の許容量を超えてしまったとき、限界を超えてしまったことを知らせるために様々な症状が起こる。

 発症させる原因物質は、最初は特定の物質だったかもしれないが、すべての化学物質が原因となる可能性を有し、実際、CSを発症した人の多くが、その後異なる多種類の化学物質によっても発症してしまう。こうした状態は『多発性化学物質過敏症(MCS*Multiple Chemical Senitivity:多種化学物質過敏状態)』と呼ばれ、南田さんを始め、多くの人がMCSと診断された。

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   マンション六階のベランダの窓を開けると、目の前の湾岸道路を大量の車が夜通し走る。大型車両が多い。排ガスが辺り一体に漂い、動かない。毒の雲のようだ。産業廃棄物の山も見える。化学物質過敏症を発症した1991年当時、私たち家族の住まいは、千葉県のそんな環境の中にあった。

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   2003年の『環境白書』によれば「今日、推計で5万種以上の化学物質が流通し、また、わが国において工業用途として届け出られるものだけでも毎年300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。化学物質の開発・普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、人類や生態系にとって、それらの化学物質に長期間暴露されるという状況は、歴史上、初めて生じているものです」と報告されている。

  このような環境の中、誰にもMCSが発症する可能性がある。しかし、化学物質への感受性は、個人差が大きく、同じ環境で暮らしていても、発症しない人もいるため、周囲から理解されず孤独に苛まれるケースが多くある。

   また感受性の個人差から生まれる不理解だけではなく、多数の医師はこの病気に関心を持っておらず、診療できる医師は限られている。このため、「更年期障害」「精神疾患」など、別の疾患として診断されたり、実際、明らかな体調不良にもかかわらず、医師らに「異常なし」「気のせい」などと言われ続け、CSと診断されるまで、医療機関を何カ所も渡り歩いた経験を持つ方は少なくなく、「原因不明」として放置されている潜在患者が多数いるものとみられ、不理解から生まれる重症化やそれに伴う、苛立ちや焦燥、孤独感が、快癒への道を閉ざしてしまうこともある。

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  風がなく空気がよどんだ夜中には、強烈な化学臭が部屋に入り込んで来る。私の視力は極度に衰え、当時3歳だった娘の目も「失明寸前」と医師に言われた。同じ部屋で暮らしていても何の症状もない夫は、さぞ奇異に感じたことだろう。これが化学物質過敏症を発症した者の最大の悲劇だ。多くの患者が周囲の理解を得られず、心の病とされて精神科の門を叩く。

 確かに、呼吸が猛烈に苦しくなると、私は豹変(ひょうへん)した。エプロン姿で音楽を聞きながら娘と戯れていたのに、突然「苦しい」と叫び、部屋中をウロウロし始める。興奮状態に陥り、思考は混乱し、悲鳴を上げる・・・。そんなことが度々あった。

 誰にも分かってもらえない絶望と深い孤独感にさいなまれた。ある日、ついにベランダの柵に足をかけた。だが、死ねなかった。誰か私を殺して、と叫んだ。一刻も早く、息の吸える所に行きたい。あてもなく地図を広げた。森や緑地を示す緑色を見ただけで涙が出るほど、追いつめられていた。

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  社会的にも医学的にも認知されているアレルギーも化学物質過敏症(CS)と同じように、ある程度の量の化学物質に曝露されて、一旦過敏性を獲得する(感作)と、その後極めて微量の化学物質に曝露されることで発症する(発作)。つまり、感作と発作という2段階によって発症する。発作の段階では、中毒を起こすよりもずっと少ない量の曝露によって発症する。

同じように曝露されても発症する人と、発症しない人がいる。しかもその個人差が大きい。この点では、アレルギーとCSは共通している。

  決定的に異なるのは、アレルギー症は、免疫反応によるが、化学物質過敏症は、自律神経系への作用が中心で、他にも免疫系や内分泌系が関係しているといわれている。

アレルギー症では、発症する特定の物質と症状は一定だが、化学物質過敏症では、人によって発症する物質と症状が異なる。

例えばアレルギー症では、スギ花粉によってアレルギー性鼻炎、気管支喘息、アレルギー性結膜炎などの気道系や眼科系の症状がでるが、発汗異常などの自律神経系症状はでない。

化学物質過敏症では、人によって次にあげたような様々な症状がでる。

◆発汗異常・手足の冷えなどの自律神経系症状

◆不眠・不安、不定愁訴・うつ状態などの精神症状運動障害・

◆知覚異常などの末梢神経系症状

◆のどの痛み、乾きなどの気道系症状下痢、便秘、悪心などの消化器系症状

◆結膜の刺激症状などの眼科系症状

◆心悸亢進などの循環器系症状皮膚炎

◆喘息、自己免疫疾患などの免疫系症状

    また、その原因となる化学物質は、確認されているだけでも数十種類あり、非常に多岐にわたっている。このことを表わしている調査結果がある。横浜国立大学・糸山景子氏らが、CS支援センターの発症者488名(回答者278名)に行ったアンケート結果だ。

▼発症者の90%以上に症状が出るもの

 ・家庭用殺虫 ・殺菌剤  ・防虫剤類

▼発症者の80%以上に症状が出るもの

 ・香水などの化粧関連用品類 ・衣料用洗剤類 ・防臭剤・消臭剤・芳香剤類・タバコの煙

 ・シャンプーなどボディーケア用品類・灯油などの燃料類 ・ペンなど筆記用具類・印刷物類(新聞、雑誌、書籍)

▼個人差はあるが、そのほか新建材・塗料から放散される化学物質、排気ガス、電磁波、においが強い天然のものがあげられる。

       このように、日常生活の中に原因となる化学物質を含んだ生活に活用される製品があり、一旦その利便性の下で暮らしてしまえば、避けて生活することができないほど、原因物質を含む製品が身の回りに溢れている。

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 幸い、夫も分かってくれ、家族三人で同じ県内の緑の残る静かな住宅街へと引っ越した。雑木林に癒される日々を送り、私の体調も一旦は落ち着いたかに見えた。だが、平穏なひとときは、ほんのつかの間だった。

 今度は、片頭痛と咳と嘔吐が止まらない。近所のゴミ焼却による煙が原因だった。県が援助金を出して家庭でのゴミ焼却を奨励していたのだ。被害を役場に訴えたが、「おかしな住民」と思われただけだった。

 そのうちに、日用品のあらゆる化学物質に次々と反応し始めた。シャンプーやリンス、衣類のほか、ガス給湯器の室外機から出る燃焼ガスなどにも過激に反応が出た。私が突然キレる時、隣家では必ず誰かがシャワーを浴びていた。再び、地獄のような日々が始まった。

 

 

                                                                             続く……文責:伊集院君

 

 


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