木になる話 2(続・続篇)

――続・続 ジョン・レノンは、日本に永住しようと思っていた!?――

 

 今、南田優子さんのアルバム『EMERALD』を聴きながら書いている。ただが曲美しいだけではなく、羽のように柔らかく繊細で優しい曲たちのアルバムだ。特に2曲目の『楽園の訪問者:ストレンジャー・イン・パラダイス』は、異邦人が奏でる魅惑の旋律に透明感に溢れるスキャットと、囁きかけるような生命の優しい息吹を感じさせる歌声に、エメラルドの女神を感じさせる。

 この曲を僕は、僕の“永遠の歌姫・サラ・ブライトマン”のアルバムで知り、名曲を彼女流にアレンジした曲だと思い込んでいた。ある日、ホーム―ページのエッセイ欄に他愛のないエッセイと一緒に、サラ・ブライトマンが『ストレンジャー・イン・パラダイス』を歌う動画を貼り付けた。

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 その頃、南田優子さんは、エッセイ欄に毎回のように登場し、意味深い言葉と僕を示唆し、導くようなセンテンスを残してくれた。

この時、彼女はこの曲について教えてくれた。

 ポプュラー音楽として馴染み深い『ストレンジャー・イン・パラダイス』は、ロシアの作曲家A.P.ボロディンによる歌劇『イーゴリ公』の一場面で、劇中第2幕、ポーロヴェツの陣営で、敵将が負傷して捕らわれている主人公・イーゴリ公の気晴らしに宴席を設け、華麗に繰り広げられる歌と踊りが、元になっていること。歌って踊っているのは、ポーロヴェツの若者と娘たち、そして戦利品として略奪されて連れて来られた娘たち。このエキゾチックで物哀しい旋律には、奴隷として連れて来られた人々の望郷の想いと哀しみが込められていること。連れて来られた人たちは、『ダッタン人(タタール人)』で『ダッタン人(タタール人の)の踊り / 風に乗って飛んでゆけ』と名付けられたこと。

 その後、1954年、トニー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカル『キスメット』で『ダッタン人(タタール人)の踊り / 風に乗って飛んでゆけ』が、アレンジされ『ストレンジャー・イン・パラダイス』になり、世界的なヒット曲となったこと……

 南田優子さんのボーカルとピアノに2台のアコースティックギターを伴うだけの南田優子さんアレンジでは、さらに繊細に透明感に溢れ、その繊細さと透明性ゆえ、異郷に地に連れて来られた異邦人たちの物哀しさと望郷の想いが、聴く者の五感に優しく触れ、甘美で物哀しい説得性を持たせている。

 このアルバムが作られたのは、南田優子さんが、『化学物質過敏症』に長い間、苦しめられながらも、ある時は闘い、ある時は、あまりの過酷な症状に折れて絶望しかけ、それでも立ち上がりながら快癒の道を探し、折り合いをつけながら寛解の方向に辿り着き、音楽活動を再起動させた頃だ。

 僕の手元には、南田優子さんの5枚のアルバムがある。2枚は南田さんが属するレーベルから買い求めたものだが、3枚は南田優子さんからプレゼントされたものだ。

この5枚のアルバムは、南田優子さんが、過酷な『化学物質過敏症』に果敢に取り組んだ証とも言える、彼女自身にも、多くの化学物質過敏症を発症してしまった人たちにも、そして僕にも多くの意味をもたらし、励まし、示唆し、導き、癒したアルバムだ。

 “癒し”とは、近年の会話の中で頻繁に使われるように、簡単に手に入るものではなく、長い間、探し求め続け、ようやく手にすることができた、貴重な優しさだと思う。

 それでは、本題の『ジョン・レノンは、日本に永住しようと思っていた!?』の前に、『化学物質過敏症』について書こうと思う。

 『化学物質過敏症』を語るには、南田優子さんの体験を洗いながら進めるのが、より解りやすいと思う。彼女はその体験を日本経済新聞社のある欄に7回に亘り執筆し、掲載されている。

そこで描かれたことを紹介しながら、進めたいと思う。

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 ついに限界だった。連続する強い吐き気と呼吸困難で、トイレへ行くが、もう吐くものもない。私はトイレのドアの前に座りこみ必死で息を吸ったが、とうとう動けなくなった。「まずい、このままでは死んでしまう」。恐ろしくなり、電話まで這(は)っていき、「119番」をダイヤルした。

 やがて来た救急車に乗ると、少し息が吸えるようになり、運ばれた近くの病院では、何とか自分で歩くこともできた。今ならその理由もよく分かるのだが、医師には分かってもらえなかったようだ。強い言葉で非難された。

 「自分で歩けるのに何で救急車を呼んだんですか!」「いったいどこが悪いというんですか!」

 打ちのめされ、病院を飛び出した。泣きながら走り、心の中で医師への憎悪の言葉を繰り返す……

 なぜか、森や林の中へ駆け込みたかった。夢中で木々を探していた。だが、この町にはどこにも緑がない。ようやく一本の梅の木を見つけてしがみついた。顔をつけて、必死に息をする。微かに木の香りがした。苦しく、悲しかった。とめどなく涙があふれた……

 

                                    続く……

                            文責・伊集院君

 

 

 

 


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